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北里大学医療衛生学部医療工学科臨床工学専攻 臨 床 工 学 研 究 室 |
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研究の周辺から (呼吸, 23, 335-336, 2004) 1990年の9月、私は三重県伊勢市の海岸にいた。美しい海原に何本もの白い波筋を後ろに引きながら、幾艘もの小さなボートがモーター音を響かせて沖を目指していた。暑い日差しに海風が心地よかった。海女専用の保護海域にいたると、命綱をつけた海女たちは、海中に潜ってあわびを捕り、旦那さんに綱を引いてもらいながら、海面と海底を行き来していた。 私は、ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院(M. G. H.)麻酔科のZapol教授たちとの共同研究で、海岸近くの民宿を借り、海女の水中での酸素飽和度の測定をしていた。Zapol教授からの宿の条件はfaxを使えることで、このとき、彼がfaxでボストンとやりとりしていた「Circulation」誌への投稿論文が吸入NO(一酸化窒素)の肺血管拡張作用に関係したものだった。 Zapol教授は、この海女の研究プロジェクトで一緒だったベルリン大学のFalk教授とともに、この後、ARDS患者でNO吸入療法を始めた。私は、1993年にボストンに呼ばれ、北里大学病院の高度先進医療育成プログラムの援助を受けて渡米し、NO吸入療法を北里大学病院に取り入れた。その後、文部省科学研究費の国際共同研究の補助を受け、主に急性肺損傷とNOやNO吸入との関係について、ボストンと日本(NO吸入の動物実験は国立環境研究所)で一連の研究を行い、NOが急性肺損傷に対して保護的に働いていることを明らかにしてきた。 バード大学はNO吸入療法そのものを特許で押さえた。紆余曲折があって、現在はAGA社(ガス関連の会社)の子会社のINO Therapeutics社がNO吸入療法を担当している。NOは安価なガスであるが、米国でのNO吸入療法の価格は、はじめの24時間が3,000ドルで、そのあと1時間あたり125ドルずつ加算され、96時間で12,000ドルに達したところで、30日後まで、12,000ドルのprice capがかかる、というように、高価である。日本では、Air Water社と住友精化社が協同で、新生児に対してのorphan drugとしての認可を求めている。新生児の低酸素血症の他にも心臓奇形手術後の一過性の肺高血圧症には明らかに有効で、北里大学病院では、しばしば使用している。他にも多くの疾患や病態でNO吸入療法は有効と思われるが、NO吸入療法を臨床応用する気運が冷めてしまい、患者への治療の恩恵が忘れられてしまったような感が否めず、残念である。 ハーバードで出来て日本でできないことは何もないと思う。日本でも優秀な人材や装置が揃っている。しかし、圧倒的に違うのは情報量だと思う。まだ、論文になっていない情報がハーバードには世界中から集まる。毎年冬にボストンを訪れる度に、レベルの高い雑誌に論文が受理されるための国際標準(米国標準)が変わっていた。 ボストンの冬の寒さは厳しかった。わずかの憩いを求めて、小澤征爾氏のBoston Symphonyに通った。最後にボストンを去る前日の日暮れ時、M.G.H.のmain campus から離れたM.G.H. Eastという研究棟近くのはしけから船で町中の港にある水族館に向かい、ボストンの高層ビル街の凍てついた灯をながめていた。「NOの研究をまとめたら、対向血流の研究成果を発表し(後に論文掲載:Kobayashi, H. Takizawa, N.: Imaging of oxygen transfer among microvessels of rat cremaster muscle. Circulation. 105:1713-1719, 2002.)、その後は臨床の原点に戻り、独自の研究を始めよう」と考えながら、暖かい伊勢の海を想い出していた。 |
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